2025年11月28日
麦門冬湯と柴朴湯 あなたの咳は、乾いた咳? それとも湿った咳?


こんにちは、小林内科医院です。
冬から春にかけて、外来でとても多くなる相談が「咳」です。
風邪が治ったはずなのに咳だけ続く、夜に咳き込んで眠れない、のどが乾いてヒリヒリする…。
そんな患者さんのお話を日々伺っています。
咳とひとことで言っても、タイプはさまざまです。
乾いている咳、痰が絡んでいる咳、のどがつまるような咳——。
そのタイプの違いによって、選ぶ漢方薬も大きく変わります。
今回はその中でも、外来で使う頻度が高い 麦門冬湯(ばくもんどうとう) と 柴朴湯(さいぼくとう) の2つを取り上げて、咳のタイプ、生薬の働き、そして実際の臨床のイメージまで丁寧に解説していきます。
◆ 麦門冬湯——乾いた咳をしっとり潤す処方
麦門冬湯は、昔から「乾いた咳」「のどの乾燥」に対して使われてきた漢方薬です。
風邪のあとに咳だけが長く残るタイプの方や、季節の変わり目にカラ咳が止まらない方に向いています。
〈こんな咳の方に向いています〉
コンコンと乾いた咳が続く
のどがヒリヒリして痛い
声がれがある
風邪は治ったのに咳だけ残っている
夜間に咳き込みやすい
胃腸が弱めで、西洋薬の咳止めがきつく感じる
特に「のどや気道の粘膜が乾いて刺激されて咳が出る」タイプに合いやすいのが麦門冬湯の特徴です。
〈麦門冬湯に含まれる主な生薬と働き〉
● 麦門冬(ばくもんどう)
麦門冬湯の主役。
のどの乾燥をしっとり潤し、炎症を落ち着かせる働きがあります。
乾いた咳に対してはこの「潤し効果」が非常に重要で、粘膜に薄い膜を張るように保護してくれます。
● 半夏(はんげ)
咳き込みや吐き気を抑える働き。
痰が少し絡む時にもバランスを整えてくれます。
また胃腸をサポートするため、長引く咳で体力が落ちている人にも使いやすい生薬です。
● 人参(にんじん)
体力を補い、粘膜を整え、回復を促す働き。
風邪の後半でぐったりしている時にも向いています。
● 大棗(たいそう)・甘草(かんぞう)
生薬同士の働きを調和させ、炎症や咽頭痛をやわらげる役割。
● 粳米(こうべい)
胃腸の負担を軽減し、からだを優しく支える“クッション材”。
胃が弱い方でも飲みやすくする重要な存在です。
こうした生薬の組み合わせによって、麦門冬湯は 「乾いた咳をしっとり落ち着かせる」 処方として非常にバランスの良い漢方で、副作用が少なく、年齢・体質問わず使いやすいという利点もあります。ただし急性期の咳には少し効果が弱いかもしれません。
◆ 柴朴湯——のどのつかえ、痰、ストレス性の咳に
次に紹介するのが 柴朴湯(さいぼくとう)。
麦門冬湯とは対照的に、こちらは “つまる感じ・息苦しさ・痰のからみ” に強い処方です。
〈こんなタイプに向いています〉
のどがつまる感じがある
たんが絡んで苦しい
咳が出そうで出ない
気道が狭いような息苦しさ
喉・胸が締めつけられるような感じ
緊張やストレスがあると咳が悪化する
柴朴湯は、単なる咳止めというより、
「のどの違和感や気道の緊張をゆるめる」という少し独特の働きを持っています。
咳喘息の入り口や、アレルギー性の咳、ストレスで症状が悪化する方にも使われることが多い漢方です。
〈柴朴湯に含まれる主な生薬と働き〉
● 柴胡(さいこ)
胸部の張りをとり、気の流れを整える。
ストレスで咳が悪化しやすい人にピッタリの生薬。
● 半夏(はんげ)
痰を取り除き、のどのつかえ感を改善。
麦門冬湯にも含まれるが、柴朴湯では“痰のさばき役”としてより大事な働きを担います。
● 茯苓(ぶくりょう)
余分な水分を取り去り、むくみや痰による詰まりを軽くする。
心身を落ち着かせる効果もあるため、不安感が強いタイプの咳にも向きます。
● 蘇葉(そよう)
気道を広げ、呼吸を楽にする働き。
「胸がスーッと通る」感覚をもたらす生薬。
● 桂皮(けいひ)
体を温め、気道の流れを改善。
冷えが絡む咳や、夜間の悪化に向いています。
● 甘草(かんぞう)
炎症を和らげ、生薬全体の働きを調和。
柴朴湯は “気のつまり”と“痰のつまり”両方にアプローチできるのが大きな強み。
「息が入りにくい」「胸が苦しい」という患者さんにはとてもよく合う処方です。
◆ 麦門冬湯と柴朴湯——どう使い分ける?
同じ“咳”でも、薬の選び方はまったく違います。
外来では、次のようなポイントをしっかりチェックして処方を決めています。
1. 咳は乾いているか、湿っているか?
乾いてコンコン → 麦門冬湯
湿っていて痰が絡む → 柴朴湯
2. のどの痛みや乾燥が強いか?
ヒリヒリ痛い、乾燥が強い → 麦門冬湯
3. のど・胸がつまる感じがあるか?
息が苦しい、つまって咳が出にくい → 柴朴湯
4. ストレスで症状が悪くなるか?
精神的緊張で咳が悪化 → 柴朴湯
5. 胃腸の強さはどうか?
体力が落ちている・胃が弱い → 麦門冬湯が優しい
こうした細かな体質や症状を見極めながら、最も合う処方を選んでいきます。
◆ 咳が長引くときは早めにご相談ください
咳が続くと、眠れない・仕事に支障が出るなど、生活の質が一気に落ちてしまいます。
麦門冬湯も柴朴湯も、症状が合えばとてもよく効きますが、
逆に タイプが違うと効果が弱く感じることもあります。
当院では、咳のタイプや体質を丁寧に診察し、
漢方と西洋薬を状況に応じて組み合わせながら、
少しでも楽に過ごせるようサポートしています。
つらい咳でお困りの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
咳の長い季節を少しでも快適に過ごせるよう、お手伝いできれば幸いです。