2025年12月11日
不眠に悩む方へ ― 体質と症状から考える漢方の選択


こんにちは、小林内科医院です。
気温の変化や生活リズムの乱れ、仕事や家庭でのストレスなどにより、“眠れない”というご相談がとても増えています。
「布団に入ってもなかなか寝つけない」「夜中に何度も目が覚める」「疲れているのに眠れない」、眠れないことは本当につらいですよね。
西洋薬では眠りを“誘導”することが中心ですが、漢方では “なぜ眠れないのか” その背景を考え、不眠に対してアプローチしていきます。
今回は、不眠でよく登場する4つの漢方を取り上げ、症状と体質からどの処方が向いているのかをわかりやすくご紹介します。
■ 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
〜不安・動悸・胸がざわざわして眠れないタイプに〜
「胸がドキドキして落ち着かない」「考えごとが止まらない」「夜になると不安が押し寄せる」
そんな“交感神経が過剰に働いている状態”による不眠にまず候補に挙がる処方です。
● こんな症状はありませんか?
寝つこうとすると不安が強くなる
動悸や胸の“ざわつき”が自覚される
みぞおちが張る、胸のあたりが重い
ストレスで胃腸が張りやすい
夜になると特に考えすぎてしまう、悪夢を見やすい
漢方でいう 「胸脇苦満(きょうきょうくまん)」 があるタイプにぴったりで、現代のストレス社会とは相性が非常に良い処方です。おへその上の部分を触れると、ドクドクと動脈の拍動を触れるのも特徴で、ストレスが溜まっており、悪い夢を見やすい人が多いと言われています。
● 生薬の特徴と働き
柴胡(さいこ):ストレスで乱れた自律神経を整え、気の滞りを解消
竜骨・牡蛎:天然の鎮静作用。不安や緊張をしずめる
大黄(少量):上にのぼった気を下げ、気の巡りを改善
半夏・茯苓:胃腸の不快感を整え、ストレスに伴う体の緊張をやわらげる
不眠そのものを直接「眠らせる」というより、
不安・緊張という“眠れない原因”をほどいていく 処方です。
● 臨床での手応え
「昨日より寝つきがよかった気がする」「胸のざわつきが減った」
このような実感を早期に得やすいのが特徴です。
ストレス関連の不眠の第一選択になりやすい漢方です。
■ 桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
〜体力が落ちて心細くなり、眠れなくなるタイプに〜
柴胡加竜骨牡蛎湯よりも“優しい”トーンの不眠向けの処方です。
体力や気力が落ち、冷えや疲労のせいで不安が強まるタイプに向きます。
● こんな症状がある方に
夜になると心細くなる
入眠しにくいけれど、強い不安ではない
身体が冷えやすい、疲れやすい
眠りが浅い・夢が多い
日中は平気でも、夜だけ不安が増す
精神症状が強いわけではなく、“体力低下に伴う不安感”が背景にあると効果を発揮します。
● 生薬それぞれの役割
桂枝:体を温め、巡りを整えて緊張をゆるめる
芍薬:神経の過敏さを鎮め、筋肉のこわばりを取る
竜骨・牡蛎:不安をしずめ、安心感を与える
大棗・甘草:胃腸を守り、体力を補う
冷えや体力低下を土台とした不眠に対して、
からだの優しい回復と、心の安定を同時にねらう処方 といえます。
● 使いやすい場面
病後や更年期前後で「心が落ち着かない」「なんとなく眠れない」というケースに良く合います。
刺激も少なく、使い心地の良い漢方です。
■ 加味逍遙散(かみしょうようさん)
〜イライラ・ほてり・気分の波があり、眠りが浅くなるタイプに〜
女性の不眠症状で特に使用頻度が高い処方です。
ホルモンバランスの変動やストレスの蓄積で、気分の浮き沈みやのぼせが出やすい方に向いています。
● 合いそうな症状
イライラしやすい
頭に熱がこもる感じがある(のぼせ)
寝つきが悪い、眠りが浅い
PMSや更年期で不眠が悪化
肩こり、頭重感、気分の波がある
ストレスで“気が上にのぼる(気逆)”ために頭が冴え、眠れなくなっている状態に効果的です。
● 生薬の働き
柴胡・薄荷:気の流れを整え、ストレスを軽減
当帰・芍薬:血の巡りをよくし、冷えやめまいの改善
山梔子・牡丹皮:ほてりやのぼせをしずめる
茯苓・甘草:心と胃腸のバランスを整える
気持ちの波を滑らかにし、頭にのぼった熱を引かせることで、
自然と寝つきが良くなり、睡眠の質も安定していく のが特徴です。
■ 酸棗仁湯(さんそうにんとう)
〜疲れているのに眠れない・眠りが浅いタイプに〜
精神的・肉体的に疲労しているのに、なぜか眠れない。
寝てもすぐに目が覚めてしまう ― そんな“睡眠の質”に問題がある人にとてもよく合う処方です。
● こんなタイプの不眠に
眠りが浅く、夢をよく見る
夜中に何度も目が覚める
日中だるく、集中力が続かない
疲れているのに寝つけない
ストレスで胃腸が弱っている
特に「疲労困憊なのに眠れない」という矛盾した状態が典型です。
● 生薬の働き
酸棗仁:精神安定作用が非常に強く、夜間の興奮を鎮める
茯苓:不安を抑え、余分な水分バランスを整える
知母:ほてりを鎮め、頭の興奮を冷ます
川芎:頭部の血流を整え、緊張を緩和
睡眠薬のように強制的に眠らせるのではなく、
“眠りに入ってからの深さ”を改善する処方 として非常に優れています。
● 臨床で多い印象
中高年の不眠、ストレス過多の方、または更年期女性に合うことも多く、
「夜中の覚醒が減った」「夢が減って朝の疲れが違う」といった声がよくあります。
🌜 まとめ ― 不眠の背景に合わせて漢方を選ぶことが大切
同じ“不眠”でも、原因や体質が違えば選ぶべき処方も大きく変わります。
主な背景
向きやすい処方
不安・動悸・胸のざわつき ➡ 柴胡加竜骨牡蛎湯
体力低下・冷え・軽い不安 ➡ 桂枝加竜骨牡蛎湯
イライラ・ほてり・気分の波 ➡ 加味逍遙散
眠りが浅い・夢が多い・疲れているのに眠れない ➡ 酸棗仁湯
小林内科医院では、西洋医学と漢方医学の両面から、不眠の背景を丁寧に確認しながら治療を進めています。
眠れない日が続くと、心も身体も消耗してしまいます。
「大したことない不眠だから…」と我慢せず、お気軽にご相談ください。
あなたに合った治療法を一緒に考えていきます。
みんなでいい夢見ましょうね。