2026年1月20日
「効きにくいがん」から「長く付き合えるがん」へ
はじめに
こんにちは。小林内科医院です。
今回は胃がんに続き、大腸がんのお話をしたいと思います。
大腸がんを見つけるには「便潜血検査」が基本です
現在、日本の大腸がん検診では
便潜血検査(FIT:免疫法) が標準として用いられています。
便潜血検査とは、
便の中に含まれる ごく微量の血液(ヒトヘモグロビン) を検出する検査です。
痛みはなく、自宅で簡単に行える検査でありながら、
大腸がん検診としての有効性が、長年の研究で確認されています。
国立がん研究センターの報告では、
便潜血検査による 大腸がん検出の感度は約84%、特異度は約92%。
つまり、
がんを見逃しにくく
不必要な陽性も比較的少ない
信頼性の高い検診方法といえます。
便潜血陽性を放置すると、何が起きるのか
この点について、非常に重要なデータがあります。
イタリアで行われた
FIT(便潜血検査)ベースの大規模集団検診研究では、
便潜血陽性後に
大腸内視鏡を受けた人
便潜血陽性後に
内視鏡を受けなかった人
を長期間追跡しました。
その結果――
👉 内視鏡を受けなかった人は、
受けた人に比べて大腸がんで亡くなるリスクが約2倍
という明確な差が示されました。
10年間の追跡では、
内視鏡受診群:
大腸がん死亡 約 6.8人 / 1000人
非受診群:
約 16.0人 / 1000人
と、はっきりした差が出ています。
年齢・間隔・回数はどう考える?
現在のガイドラインでは、
検診対象:
40歳以上
検診間隔:
1年ごと(2年ごとも可)
採便回数:
1回法でも2回法でも可
とされています。
細かい違いはありますが、
患者さんにとって最も大切なのは、
👉 「定期的に受けること」
👉 「陽性を放置しないこと」
この2点です。
つまり、大腸がんは検診で見つけることが何より大切であり、便潜血検査が重要なのは間違いありません。
便潜血を定期的に行い、大腸がんの早期発見を目指しましょう。
それでも現実には、
進行した状態で大腸がんが見つかる方が一定数いらっしゃいます。
そこでここからは、
大腸がんの抗がん剤治療が、この20年ほどでどれほど進歩してきたのか
について、少し詳しくお話しします。
2000年頃の大腸がん治療
―「抗がん剤は効きにくい」と言われていた時代―
私が医師になりかけだった2000年前半、
当時の教科書にはこう書かれていました。
「消化器がんは、抗がん剤が効きづらい」
大腸がん治療の中心は、
殺細胞性抗がん剤でした。
代表的な治療が、
FOLFOX療法(5FU +オキザリプラチン)
FOLFIRI療法(5FU +イリノテカン)
です。
これらは、がん細胞の分裂そのものを阻害することで効果を発揮しますが、
同時に正常な細胞にも影響を及ぼします。
そのため、吐き気や倦怠感、免疫抑制など、様々な副作用が起きてしまいます。たくさんの薬を組みわせるとその分副作用が起きてしまうため、限界があるのです。
遠隔転移を認める
ステージ4大腸がんにおいて、
当時目標とされていた全生存期間は 約20か月。
「何とか2年近く生きていただく」
それが現実的な到達点でした。
医師として治療を行いながらも、
「もう一段、何かが足りない」
そんなもどかしさを感じる時代だったと思います。
分子標的薬と免疫療法が変えた、大腸がん治療の風景
「無差別に叩く」から「狙って治療する」時代へ
その流れを大きく変えたのが、
分子標的薬と免疫療法の登場です。
抗VEGF抗体薬
― がんを「兵糧攻め」にする治療 ―
がんは増殖するために、
自分の周囲に新しい血管を作り、そこから栄養を取り込みます。
この「血管新生」を抑えることで、
がんの成長を妨げるのが 抗VEGF関連薬です。
ベバシズマブ
最も早く登場した抗VEGF抗体薬で、
現在も大腸がん治療の中心的存在です。
血管新生を抑制する
殺細胞性抗がん剤と併用
遺伝子変異の有無に関係なく使用可能
「まず使われることが多い薬」として、
多くの患者さんに用いられてきました。
ラムシルマブ
VEGFそのものではなく、
VEGFの受け皿(受容体)をブロックする薬です。
主に2次治療以降で使用
FOLFIRI療法との併用が多い
ベバシズマブ後でも効果が期待される
という特徴があります。
アフリベルセプト
VEGFを捕まえて無力化する薬で、
いわば 「VEGFトラップ」 とも呼ばれます。
VEGFを強力に抑制
主にFOLFIRI療法と併用
他の抗VEGF薬後でも使用可能
抗VEGF薬は、
👉 大腸がん全体に広く効果が期待できる治療
👉 治療の土台となる薬剤群
と位置づけられています。
抗EGFR抗体薬
―『効く人が分かる』個別化治療―
抗EGFR抗体薬は、
がん細胞の表面にある EGFR(上皮成長因子受容体) を標的とします。
EGFRは、がん細胞に
「増えろ」という信号を送るスイッチのような存在です。
セツキシマブ
抗EGFR抗体薬として最初に広く使われた薬です。
**RAS遺伝子が野生型(変異なし)**の患者さんに有効
左側結腸がんで特に効果が高い
皮疹が出ることがあるが、効果の指標となる場合もある
パニツムマブ
同じ抗EGFR抗体薬ですが、性質が少し異なります。
完全ヒト型抗体
アレルギー反応が少ない
RAS野生型・左側結腸がんで高い効果
抗EGFR抗体薬の登場により、
遺伝子を調べて治療を選ぶ
効かない治療を避ける
という 個別化医療 が本格的に始まりました。
特に
左側結腸がん × RAS野生型
の患者さんでは、
👉 ステージ4であっても
👉 40ヶ月程度の生存を得られる時代
となっています。
つまり今までの2倍長生きができる時代になったのです
免疫療法
― 劇的に効く「特別な大腸がん」 ―
大腸がん患者さんの 約3% に、
MSI-high(マイクロサテライト不安定性が高い)
という特徴を持つ方がいます。
このタイプのがんは、
がん細胞に遺伝子異常が多い
免疫から「異物」として認識されやすい
という性質があります。
免疫チェックポイント阻害薬とは
私たちの免疫には、
「ブレーキ」が備わっています。
がんはこのブレーキを巧みに利用し、
免疫の攻撃から逃れています。
免疫チェックポイント阻害薬は、
👉 このブレーキを外す治療です。
その結果、
免疫が再びがんを攻撃する
長期間、病勢が抑えられる
という劇的な効果が得られることがあります。
従来の抗がん剤がほとんど効かなかった患者さんが、
免疫療法によって
長期に安定した状態を保つ
ケースも経験されるようになりました。
ただし、
全ての大腸がんに効くわけではない
MSI-highという条件が重要
という点は、正しく理解する必要があります。
後方ライン治療の充実
病状が進行した後でも、治療の選択肢は増えています。
レゴラフェニブ
TAS-102
フルキンチニブ
これらは、
がんの進行を抑える
生活の質を保つ
次の治療につなぐ
ための重要な治療です。治療が少なくなっても諦めずに頑張る事が肝要です。
おわりに
抗がん剤が進歩した今だから伝えたいこと
大腸がんの抗がん剤治療は、
この20年で驚くほど進歩しました。
しかし、
抗がん剤が進歩したからこそ、
改めて強調したいことがあります。
👉 大腸がんは、早く見つければ
抗がん剤すら必要ないことが多い
という事実です。
検診で見つかる早期大腸がんと、
進行してから治療を始める大腸がんでは、
治療の負担も、人生への影響も大きく異なります。
最後に
治療の選択肢が増えたことは、
患者さんにとって大きな希望です。
それでも、
検診に勝る治療はありません。
検診 → 早期発見 → 必要最小限の治療
この流れを守ることが、
最も確実に命を守る方法です。
気になることがあれば、
どうぞお気軽にご相談ください。