2026年2月20日
― 一次治療から二次治療、そして新しい治療まで ―
こんにちは、小林内科医院です。
今回は「膵癌(すいがん)の治療の流れと進歩」について、少し詳しくお話しします。
膵癌は今もなお難しいがんです。
胃がんや大腸がんと比べると、治療の選択肢は多いとは言えません。
しかし、20年前と比べると状況は大きく変わっています。
今日はその“積み重なってきた進歩”を順を追って説明します。
■ ジェムザール単剤の時代(2000年代)
2000年代初めまで、進行した膵癌の標準治療は
ジェムザール(ゲムシタビン)単剤でした。
当時のデータでは、生存期間の中央値は約6か月。
膵癌に対しては、他のがんと比べて有効な薬がほとんどない時代でした。
■ ジェムザール+S-1(日本での進歩)
日本ではその後、
ジェムザールとS-1を組み合わせた治療
が広まりました。
S-1は日本で開発された飲み薬の抗がん剤で、胃がんではよく使われています。
この併用療法では、ジェムザール単剤よりも生存期間が延びる可能性が示され、日本では重要な選択肢になりました。
この頃から「単剤から併用へ」という流れが始まりました。
■ FOLFIRINOX療法の登場
2011年、4種類の抗がん剤を組み合わせた
FOLFIRINOX療法
が登場します。
この治療では、
生存期間中央値:約11か月
腫瘍縮小率:約30%
と、それまでより明らかに良い成績が示されました。
ただし副作用が強いため、体力が十分ある患者さんが対象になります。
それでも「膵癌でもここまで延ばせる」という大きな前進でした。
■ ゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法
続いて広がったのが
ゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法
です。
海外のデータでは生存期間中央値は約8.5か月でしたが、日本のデータでは約13か月前後という結果も示されています。
この治療は、
比較的幅広い患者さんに使える
腫瘍縮小効果が安定している
副作用調整が可能
という特徴があります。
現在も一次治療の柱のひとつです。
■ 二次治療の確立 ― 大きな転換点
かつては、
「最初の治療が効かなくなったら、次は難しい」
という時代でした。
しかし現在は違います。
● ナノリポソーム型イリノテカン+5-FU
一次治療後に使用する治療として、
ナノリポソーム型イリノテカン+5-FU
が有効であることが示されました。
この治療では、
生存期間中央値:約6か月台
5-FU単独よりも有意に延長
という結果が示されています。
つまり、
「治療は1回で終わりではない」
という時代に入ったのです。
治療を“つなぐ”ことができるようになったのは、膵癌治療にとって大きな進歩です。
■ さらに新しい一次治療:NALIRIFOX
最近では、
ナノリポソーム型イリノテカン+5-FU+オキサリプラチン(NALIRIFOX療法)
が従来治療よりも良い成績を示しています。
この治療では、
生存期間中央値:約11か月台
ゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法より延長
という結果が報告されています。
副作用はやや強めですが、新たな選択肢として期待されています。
■ 分子標的治療と遺伝子検査
膵癌の一部では、
BRCA遺伝子変異
を持つ患者さんがいます。
その場合、
PARP阻害剤
という内服薬が使える可能性があります。
対象は多くはありませんが、個別化治療の流れが始まっています。
■ 胃がん・大腸がんと比べると
大腸がんでは生存期間が2~3年以上になることも珍しくありません。
胃がんでも分子標的薬や免疫療法が広がっています。
膵癌では、
免疫療法がほとんど効かない
標的薬が少ない
という壁があります。
だからこそ「まだまだ」と言われます。
■ それでも確実に積み上がっている
ジェムザール単剤の時代から、
併用療法
強力な多剤療法
二次治療の確立
新しい一次治療
遺伝子に基づく治療
と段階的に進歩しています。
昔の「ほとんど何もできない」時代とは違います。
■ 治療の意味
膵癌治療の目的は
「数字」だけではありません。
痛みを軽くする
食事を取れるようにする
生活の質を保つ
家族との時間を守る
それも大切な目的です。
■ これから
現在も、
KRASを標的とした新薬
免疫療法との併用
新しい薬の組み合わせ
の研究が進んでいます。
膵癌は難しい病気ですが、医療は止まっていません。
■ 最後に
膵癌は厳しいがんです。
胃がんや大腸がんと比べると、まだ追いついていません。
しかし、確実に前に進んでいます。
治療は「ゼロか100か」ではありません。
少しずつ積み重ねる医療です。
不安なことがあれば、どうかご相談ください。
難しい病気だからこそ、
分かりやすく、正確にお伝えしていきたいと思っています。