2026年2月24日
〜気虚・血虚という視点からみる「回復しない疲れ」〜


こんにちは、小林内科医院です。
「検査では異常がないですね」と言われたけれど、どうしてもつらい。
「年齢のせい」と言われたけれど、昔はこんなに疲れなかった。
「十分寝ているのに回復しない」
「食後に強い眠気が出る」
こうしたご相談はとても多くあります。
血液検査では正常。
画像検査でも異常なし。
でも、ご本人は明らかにしんどい。
こうした状態を、漢方では
“虚(きょ)” という概念で捉えます。
今日は、その中でも特に重要な
気虚(ききょ)
血虚(けっきょ)
という考え方と、それに対する代表的な処方
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
について、丁寧にお話しします。
■ 気と血とは何か
漢方では、体を支える基本要素を
・気 = エネルギー
・血 = 栄養とうるおい
と考えます。
気は「動かす力」。
血は「養う力」。
車で言えば、
気はエンジン。
血はガソリンやオイル。
どちらが不足しても、うまく走れません。
■ 気虚とは? 〜食後の眠気は大きなヒント〜
気虚とは、体のエネルギー不足の状態です。
代表的な症状は
・疲れやすい
・朝からだるい
・少し動いただけでぐったり
・息切れしやすい
・風邪をひきやすい
・声が小さい
・やる気が出ない
そして非常に重要なのが
「食べると眠くなる」
という症状です。
食事は本来エネルギー補給ですが、
消化吸収には大量のエネルギーが必要です。
気が十分にある人は問題ありません。
しかし、もともと気が不足していると、
食事 → 消化で気を大量消費 → さらに不足 → 強い眠気
という流れになります。
昼食後に動けない。
午後の仕事がつらい。
会議中に集中できない。
これは単なる体質ではなく、
気虚の重要なサイン です。
■ 気虚の背景
現代社会では、
・過労
・睡眠不足
・精神的ストレス
・長引く感染症
・加齢
・胃腸虚弱
などが気を消耗させます。
「年齢のせいですね」と言われがちな疲れも、
漢方では“補う余地がある状態”と考えます。
■ 血虚とは?
血虚は、体を養う血の不足です。
症状は
・顔色が悪い
・めまい
・動悸
・不眠
・手足のしびれ
・髪が抜けやすい
・皮膚が乾燥する
・月経量が少ない
血は体を潤し、精神を安定させます。
血が不足すると、体も心も落ち着きません。
■ 補中益気湯とは何か
補中益気湯は
「中(胃腸)を補い、気を益す」
処方です。
ここでいう「中」とは、中焦、つまり胃腸。
胃腸は、気と血を作る工場です。
いくら栄養を摂っても、
工場が弱っていればエネルギーは作れません。
補中益気湯は、
・胃腸を立て直す
・気を増やす
・回復力を底上げする
という処方です。
■ 補中益気湯の生薬(やや詳しく)
補中益気湯は複数の生薬から構成されています。
● 人参(にんじん)
補気の中心薬。
胃腸を強くし、消化吸収を高め、全身のエネルギー産生を助けます。
● 黄耆(おうぎ)
気を補い、体力を底上げします。
免疫調整作用もあり、慢性的な疲労に重要な役割を果たします。
● 白朮(びゃくじゅつ)
脾(胃腸)を補い、水分代謝を整えます。
胃腸虚弱によるだるさに関与します。
● 甘草(かんぞう)
諸薬を調和させ、胃を保護します。
● 当帰(とうき)
血を補い、巡りを整えます。
補中益気湯では少量で、主役はあくまで“気”。
● 柴胡(さいこ)・升麻(しょうま)
昇提作用を持ちます。
下がった気を持ち上げる働きがあります。
● 陳皮(ちんぴ)
胃の動きを整え、消化を助けます。
● 生姜・大棗
胃腸を温め、消化吸収を支えます。
■ 昇提作用について
補中益気湯には柴胡・升麻が含まれ、
昇提作用があります。
これは
・胃下垂
・脱肛
・子宮下垂
などにも応用される理由です。
ただし、臨床では
「下がった気を整える」程度に理解していただければ十分です。
■ 補中益気湯が合う人
・食後に眠くなる
・午後がつらい
・慢性的な疲労
・胃腸が弱い
・風邪を繰り返す
血虚は目立たず、
まずはエネルギーを立て直す段階です。
■ 十全大補湯とは何か
十全大補湯は
気も血も両方補う処方です。
エネルギーも材料も不足している状態に使います。
■ 十全大補湯の生薬(やや詳しく)
【補気】
・人参
・白朮
・茯苓
・甘草
・黄耆
→ 胃腸を強くし、エネルギーを増やします。
【補血】
・当帰
・芍薬
・川芎
・地黄
→ 血を増やし、巡らせ、潤します。
【温める】
・桂皮
→ 冷えを改善し、血流を助けます。
■ 地黄の特徴
十全大補湯の血を補う中心が
地黄(じおう)
です。
地黄は血をしっかり補いますが、
やや“重い”生薬です。
・胃もたれ
・軟便
・腹部膨満
が出ることがあります。
そのため、
いきなり十全大補湯ではなく、
まず補中益気湯で胃腸を整えることもあります。
■ 十全大補湯が合う人
・体重減少
・顔色不良
・冷えが強い
・貧血
・長期間回復しない
気血両虚の状態です。
■ どう選ぶのか
・食後眠気が目立つ
・胃腸が弱い
→ 補中益気湯
・顔色が悪い
・冷えが強い
・貧血がある
→ 十全大補湯
単純ではありませんが、
大まかな目安はこうなります。
■ 最後に
疲れは「気のせい」ではありません。
・食べると眠い
・回復しない
・なんとなくずっとしんどい
それは
気虚かもしれない。
血虚かもしれない。
その両方かもしれません。
「年齢のせい」とあきらめず、
一度ご相談ください。
小林内科医院では、西洋医学と漢方の両方の視点から、
あなたの体に合った“補い方”を一緒に考えます。
院長のひとこと
食後に眠くなるのは、意志が弱いからではありません。
気のせいではなく、「気」が足りないこともあります。
検査で異常がないのにしんどい。
それは、数値に出ない不調かもしれません。
疲れを我慢するのではなく、
体の声を一度聞いてみてください。