2026年2月10日
― 治療の進歩と、それでも大切な早期発見 ―
こんにちは、小林内科医院です。
先日は新百合ヶ丘でも雪が降り、厳しい寒さが続いていましたが、今週に入り少しずつ暖かさを感じられるようになってきました。週末は春本番を思わせるような陽気になる予報です。
しかし、この時期は「三寒四温」といわれるように、暖かい日と寒い日を繰り返しながら季節が進んでいきます。気温差が大きいと体調を崩しやすくなりますので、どうぞ無理をなさらず、体調管理には十分お気をつけてお過ごしください。
今回は「食道がん治療の進歩」についてお話しします。
食道がんというと、「見つかったら大変な病気」「治療がつらい」という印象を持たれている方も多いと思います。実際、私が医師になった頃は、進行した食道がんに対する治療は限られており、長く病気を抑え続けることは難しい時代でした。
しかしこの20年で、食道がん治療は大きく変わりました。現在では進行した食道がんであっても、治療を続けながら長期間生活できる患者さんが確実に増えています。まずはその流れからお話しします。
■ 抗がん剤中心だった時代
2000年代初頭まで、進行・再発食道がんの治療は主に抗がん剤(化学療法)が中心でした。
代表的な治療は、
・5-FU+シスプラチン(FP療法)
・5-FU+ネダプラチン
といった組み合わせです。その後、パクリタキセルやドセタキセルといったタキサン系抗がん剤が加わり治療の選択肢は増えましたが、当時の治療成績は決して十分とは言えませんでした。
奏効率は約3割、生存期間中央値は9〜10か月程度で、「1年を超えられるかどうか」が一つの目安でした。つまり、治療はできても長期間コントロールすることが難しい病気だったのです。
■ 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の登場
大きな転機となったのが、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の登場です。
これは従来の抗がん剤のように直接がん細胞を攻撃するのではなく、患者さん自身の免疫の力を回復させ、免疫にがんを攻撃させる治療です。
食道がんではまず二次治療として導入され、その後の臨床試験によって生存期間の延長が示されました。現在では一次治療から使用されるようになり、治療の中心となっています。
現在の標準的な治療は、
・免疫チェックポイント阻害薬+FP療法
・免疫チェックポイント阻害薬+FOLFOX療法
・免疫チェックポイント阻害薬同士の併用(IO+IO)
という形になっています。
■ PD-L1発現とは何か
ここで最近よく耳にする「PD-L1発現」について説明します。
がん細胞はPD-L1というタンパク質を表面に出すことで、免疫細胞に「攻撃しないで」という信号を送り、免疫から逃れています。免疫チェックポイント阻害薬はこのブレーキを外し、免疫が再びがんを攻撃できるようにする薬です。
そのため、PD-L1を多く発現しているがんほど免疫療法が効きやすい傾向があります。ただし、PD-L1が低い場合でも効果が見られることはあり、実際の治療ではPD-L1だけでなく全身状態や病状を含めて総合的に判断されます。
■ 現在の治療成績 ― 長期生存が見えてきた
食道がん治療の大きな変化を示したのが、CheckMate648試験の長期成績です。
この試験では、
・ニボルマブ+化学療法
・ニボルマブ+イピリムマブ(IO+IO)
・化学療法単独
が比較され、約6年という長期間の追跡結果が報告されました。
まず、PD-L1発現に関係なく全患者で見た5年生存率は、
化学療法単独:9%
ニボルマブ+化学療法:13%
ニボルマブ+イピリムマブ:16%
でした。
さらにPD-L1発現陽性の患者さんでは、
化学療法単独:7%
ニボルマブ+化学療法:12%
ニボルマブ+イピリムマブ:18%
と、免疫療法を含む治療でより良い結果が示されています。
以前の食道がんでは5年生存は非常にまれでしたが、現在では一定割合の患者さんが長期生存できることが明らかになっています。食道がんは、「短期間で進行するがん」から、「長く付き合う可能性のあるがん」へと変化しつつあります。
■ IO+IO療法の注意点 ― 免疫由来の副作用
一方で、免疫療法には注意すべき点もあります。
特に免疫療法同士を併用するIO+IO療法では、免疫の働きを強く活性化させるため、免疫が正常な臓器にも反応してしまう「免疫関連副作用」が起こることがあります。
代表的なものとして、
・間質性肺炎(咳、息切れ、発熱)
・副腎機能低下症(強い倦怠感、食欲低下、低血圧)
・甲状腺機能異常
・大腸炎(下痢)
・肝機能障害
・皮膚症状
などがあります。
多くは早期発見と治療で改善しますが、まれに重症化することもあるため、慎重な経過観察が必要です。そのため実際の治療では、患者さんの状態や生活背景を踏まえて治療法が選択されます。
■ それでも最も重要なのは早期発見
ここまで治療が進歩しても、やはり最も重要なのは早期発見です。
早期の食道がんであれば、内視鏡治療(ESD)で完治が期待できます。体への負担も少なく、生活の質を保ったまま治療が可能です。
食道がんは症状が出にくく、「飲み込みにくい」と感じる頃には進行していることも少なくありません。だからこそ、症状がなくても定期的な胃カメラ検査が重要になります。
■ 食道がんのリスクが高い方
特に注意が必要なのは次のような方です。
・お酒を飲むと顔が赤くなる方
これはアルコール分解酵素(ALDH2)が弱い体質によるものです。分解途中で生じるアセトアルデヒドは強い発がん性を持ち、食道粘膜を長期間傷つけます。
・喫煙習慣がある方
・熱いものを好む方
・辛いものや塩分の多い食事が多い方
これらが重なるほど、食道がんのリスクは高くなります。
■ 最後に
食道がん治療は、この20年で大きく進歩しました。免疫療法の登場により、進行したがんであっても長期生存が期待できる時代になっています。
しかし、最も体への負担が少なく、最も治りやすいのは早期発見です。
当院では苦痛の少ない経鼻内視鏡による胃カメラ検査を行っています。特にお酒で顔が赤くなる方や喫煙歴のある方は、症状がなくても定期的な検査をおすすめします。
治療が進歩した今だからこそ、「早く見つけること」の価値はこれまで以上に大きくなっています。気になる症状があれば、いつでもご相談ください。