こんにちは、小林内科医院です。
最近、「鼻水が止まらない」「朝になるとくしゃみが続く」という患者さんがとても増えています。気温差や乾燥、ウイルスの流行など、鼻の粘膜に刺激が加わりやすい時期は、鼻水や鼻づまりの相談が一気に増えてきます。
今回は、鼻水症状で特に使用する機会の多い漢方薬、
「小青竜湯（しょうせいりゅうとう）」と「麻黄附子細辛湯（まおうぶしさいしんとう）」
この2つの違いについて、わかりやすく解説します。
どちらも「鼻水に効く」という点は同じですが、実は使うべき体質や症状のステージがやや異なるため、正しい選択がとても重要です。

■ 小青竜湯 ― 水っぽい鼻水が止まらない “太陽病” の漢方
小青竜湯は、漢方の病期でいう「太陽病」に属する処方です。
太陽病とは、外からの寒さや風に当たって体の表面（皮膚・鼻粘膜）に症状が出ている段階。つまり、風邪のひき始め、アレルギー反応の初期、体の外側の反応が主体の時期です。
● 典型的な症状
透明でサラサラの鼻水が止まらない
くしゃみ連発
朝方に悪化する
寒気・ゾクッとする感覚
咳が出ることもある（気管支過敏）
比較的“元気はある”
とにかく「水を絞ればジャーっと出てくる」タイプの鼻水に強い処方です。
● 小青竜湯の構成生薬
麻黄
桂皮
芍薬
甘草
乾姜
五味子
細辛
半夏
合わせて8種類。
特徴は、体の表面を温めながら、余分な水分（痰・鼻水）をさばく力が強いことです。
特に、
麻黄・桂皮 → 体表を温め、カゼ初期の寒気を散らす
半夏・五味子 → 気道の水分バランスを整え、咳・痰をおさえる
細辛・乾姜 → 冷えをとり、気道を温める
これらの組み合わせが、「鼻水が止まらない＋寒気＋咳」に総合的に効く理由です。

■ 麻黄附子細辛湯 ― 体力が落ち、冷えが芯まで入った “少陰病” の漢方
一方、麻黄附子細辛湯は「少陰病」に分類されます。
少陰病とは、寒さが体の深部（内部）に入り込み、体力が落ちている状態での風邪や寒冷刺激を指します。
つまり、同じ鼻水でも 「体力や気力が落ちていて、冷え込みが強い」 タイプに合う薬です。
● 典型的な症状
ぞくぞくするが汗は出ない
寒がりで、布団にくるまっていたい
水っぽい鼻水は減り、むしろ鼻づまり傾向
声が小さい、元気がない
悪化すると頭痛・倦怠感
高齢者や虚弱体質の方で多い
「寒さで芯から冷える」「冷えるとすぐ風邪をひく」といった方が典型的です。
● 構成生薬（3つだけ）
麻黄
附子（ぶし）
細辛
たった3つですが、この組み合わせが絶妙です。
附子 → 体の中心（腎）を温め、体力を底上げ
麻黄 → 風邪の初期の寒気や節々の痛みを散らす
細辛 → 気道を温め、鼻・咽頭の冷えによる不快感を改善
小青竜湯と比べると、
「水をさばくより、体の深い冷えを温めて症状を改善する」
これが大きな特徴です。

■ 小青竜湯と麻黄附子細辛湯の決定的な違い
① 病期（ステージ）の違い
小青竜湯 → 太陽病（外側の病）
麻黄附子細辛湯 → 少陰病（内側の病）
つまり、同じ鼻症状でも
外邪が入ったばかりの元気な人 → 小青竜湯
冷えが体の芯まで入って体力も落ちている人 → 麻黄附子細辛湯
ここを押さえると選び間違えにくくなります。
② 鼻水の性質
小青竜湯 → 透明で水っぽい鼻水
麻黄附子細辛湯 → 鼻水、鼻づまり・寒気が強い
③ 体質と年齢
小青竜湯 → 体力がある、若年者〜中年
麻黄附子細辛湯 → 体力が落ちた方、高齢者、冷え体質
④ 生薬構成
小青竜湯：8種、排水＋表を温める＋気道調整
麻黄附子細辛湯：3種、深部の冷えをとる＋体力補う

■ 鼻水患者さんが増える季節、どちらを使うべき？
当院にも、連日鼻水・鼻づまりの患者さんがいらっしゃいます。
この時期は、乾燥＋寒暖差＋ウイルスのトリプルパンチで、鼻粘膜が刺激されやすい季節です。
● 小青竜湯が合うケース
朝方に鼻水が止まらない
くしゃみメイン
風邪のひき始め
アレルギー性鼻炎の増悪
比較的元気で活動できる
● 麻黄附子細辛湯が合うケース
体が冷えて仕方ない
寒気が強く、布団が恋しい
鼻水より鼻づまり
高齢者の風邪
風邪が長引き、体力が落ちている

■ まとめ
鼻水ひとつを取っても、
「体質や症状のステージによって漢方薬の選択が変わることがある」
これが漢方の面白いところであり、難しいところでもあります。
小青竜湯は“外側の反応を抑える”薬、
麻黄附子細辛湯は“体の内側を温めて立て直す”薬。
同じ「鼻水」でも、患者さんの体力、冷え、症状の出方を見極めて使い分けることで、より効果的に治療できます。
鼻水でお困りの方が増えるこの季節、
症状に合わせた漢方治療を提案できるよう、これからも丁寧に診療してまいります。