2026年6月01日
~清暑益気湯という夏の漢方~
こんにちは、小林内科医院です。
6月に入り、だんだんと蒸し暑い日が増えてきました。
「まだ真夏じゃないから大丈夫」
と思っていても、この時期から体調を崩し始める方は意外と少なくありません。
・朝からだるい
・食欲がない
・なんとなく頭が重い
・昼過ぎになると疲れてしまう
・夜は寝ているのに疲れが取れない
そんな症状はありませんか?
最近の日本の夏は昔とは大きく変わりました。
気象庁の発表でも猛暑日や熱帯夜は年々増加しています。6月から30℃を超える日も珍しくなくなり、「夏バテ」は8月だけのものではなくなっています。
実際の外来でも、
「風邪ではない」
「コロナでもない」
「採血も異常ない」
それでも体調が優れないという相談が6月頃から増えてきます。
そんな時期に活躍する漢方薬のひとつが、
清暑益気湯(せいしょえっきとう)
です。
今日はこれからの季節にぴったりな漢方薬、清暑益気湯についてお話ししたいと思います。
夏バテはなぜ起こるのか
夏バテという言葉はよく聞きますが、正式な病名ではありません。
暑さによって体のバランスが崩れ、
・倦怠感
・食欲不振
・下痢
・頭痛
・めまい
・集中力低下
などが起こる状態をまとめて夏バテと呼んでいます。
人間は暑くなると汗をかきます。
汗をかくことは体温を下げるために必要な働きです。
しかし大量の汗をかき続けると、水分だけでなく体力も消耗していきます。
さらに現代人は、
・冷房の効いた室内
・真夏の屋外
を何度も行き来します。
この温度差だけでも体はかなり疲れます。
そして暑い日はどうしても、
・冷たいお茶
・アイス
・冷たい麺類
が増えます。
すると胃腸も疲れてしまいます。
つまり夏バテとは、
暑さによる消耗と胃腸の疲れが重なった状態
なのです。
清暑益気湯とは
清暑益気湯は、
昔から夏の暑さで弱った体を立て直すために使われてきた漢方薬です。
名前を分解すると意味が分かりやすくなります。
・清暑=暑さを取り除く
・益気=元気を補う
・湯=漢方薬
つまり、
暑さで消耗した体力を回復しながら、夏の不調を整えていく漢方薬
です。
近年の日本の夏は昔よりも長く、厳しくなっています。
6月から暑さが始まり、9月になっても真夏日が続くことも珍しくありません。
そんな現代の日本だからこそ、昔から受け継がれてきた清暑益気湯の考え方が改めて注目されています。
補中益気湯の夏バージョン
清暑益気湯を理解するうえで最も分かりやすいのが、
「補中益気湯の夏バージョン」
という考え方です。
補中益気湯は、
・疲れやすい
・胃腸が弱い
・食欲がない
・風邪をひきやすい
そんな方に使う代表的な漢方です。
高齢者のフレイルでもよく使用されます。
ところが夏になると、
単純に元気を補うだけでは足りません。
汗で失われた水分を補い、
暑さによる熱も鎮める必要があります。
そこで補中益気湯に夏向けの工夫を加えたものが清暑益気湯です。
例えるなら、
補中益気湯が普段使いの車なら、
清暑益気湯はエアコンを強化した夏仕様モデルです。
基本性能は同じですが、
暑さへの対応力が大きく強化されています。
清暑益気湯に含まれる生薬
漢方の面白さは生薬の組み合わせです。
ひとつひとつ見ていきましょう。
黄耆(おうぎ)
清暑益気湯の中心となる生薬です。
疲れた体を元気にする働きがあります。
漢方では「補気薬」と呼ばれます。
長引く疲労や体力低下に使われる代表選手です。
夏の暑さで消耗した体を立て直してくれます。
人参(にんじん)
朝鮮人参です。
野菜の人参ではありません。
胃腸の働きを高め、
食欲を改善し、
全身の活力を取り戻します。
漢方の世界では最も有名な補強薬のひとつです。
白朮(びゃくじゅつ)
胃腸を元気にする生薬です。
夏は冷たいものの取り過ぎで胃腸が弱りやすくなります。
白朮はそんな胃腸を支えてくれます。
また余分な水分をさばく働きもあります。
当帰(とうき)
血を補う生薬です。
栄養を全身に届ける役割があります。
疲労回復を助け、
体の回復力を高めます。
女性向け漢方によく入っていますが、男性にも大切な生薬です。
陳皮(ちんぴ)
みかんの皮です。
胃腸の動きを整え、
食欲を回復させます。
胃もたれや食欲低下がある方には重要な存在です。
漢方らしい面白い生薬ですね。
甘草(かんぞう)
多くの漢方薬に入っています。
それぞれの生薬をまとめる調整役です。
胃腸への負担を和らげる働きもあります。
麦門冬(ばくもんどう)
夏の主役のひとつです。
体に潤いを与える生薬です。
汗で失われた水分を補い、
口の渇きや乾燥感を改善します。
夏の消耗には欠かせません。
麦門冬湯にも使われている生薬です。
五味子(ごみし)
酸味のある果実です。
汗の出過ぎを抑え、
体の潤いを守ります。
「汗をかくとさらに疲れる」
そんな悪循環を断ち切る働きがあります。
黄柏(おうばく)
清暑益気湯の特徴的な生薬です。
体にこもった熱を冷ます働きがあります。
実は清暑益気湯の中で、
本格的に熱を冷ます役割を担っているのは主に黄柏です。
実は体を冷やしすぎない
ここが清暑益気湯の大きな魅力です。
名前を見ると、
「暑さを取る薬だから冷やす薬」
と思われがちです。
しかし実際は違います。
日本人の夏バテは、
暑さだけが原因ではありません。
・冷房で冷える
・冷たいものを飲む
・胃腸が弱る
・汗で体力が落ちる
こうした状態が重なっています。
もし強く冷やす漢方を使うと、
かえって胃腸が弱ることがあります。
清暑益気湯は熱だけを取る薬ではなく、
元気を補いながら体を整える処方です。
だから冷房で冷えている夏バテにも使いやすいのです。
私自身、この漢方の好きなところはまさにここです。
夏だからといってただ冷やすのではなく、
弱った胃腸や体力を支えながら、必要な分だけ熱を取る。
非常にバランスの取れた処方だと思います。
外来でよく見る清暑益気湯タイプ
私がよく思い浮かべるのはこんな方です。
毎年夏になると、
「また今年も調子悪いんです」
と言って来院されます。
症状は、
・朝からだるい
・食欲がない
・昼過ぎになると動けない
・冷たいものばかり欲しくなる
・少し動くだけで疲れる
・汗をかくとぐったりする
採血をしても異常はありません。
血圧も問題ない。
風邪でもない。
しかし本人は本当につらい。
そんな時に清暑益気湯が力を発揮することがあります。
特に、
「夏になると毎年体調を崩す人」
には非常に合いやすい印象があります。
熱中症との違い
熱中症は急性の病気です。
重症になると点滴や救急搬送が必要になります。
一方で清暑益気湯が対象とするのは、
そこまで重症ではないけれど、
暑さで体が弱っている状態です。
・熱中症になりそう
・熱中症のあと元気が戻らない
・夏バテが長引く
・暑さで食欲が落ちている
そんな場面で使われます。
もちろん意識障害や重度脱水がある場合は漢方ではなく救急受診が優先です。
高齢者にも大切な漢方
高齢になると暑さを感じにくくなります。
喉の渇きも感じにくくなります。
そのため気付かないうちに脱水になりやすいのです。
さらに食欲が落ちると、
筋肉も減っていきます。
夏をきっかけに一気に体力を落としてしまう方も少なくありません。
以前、人参養栄湯や補中益気湯のブログでもお話ししましたが、
高齢者にとって食欲低下は単なる夏バテではなく、フレイルへの入り口になることがあります。
だからこそ、
「年だから仕方ない」
ではなく、
早めに対策することが大切です。
補中益気湯が合う方が、
夏だけ清暑益気湯に切り替わることもあります。
今年の夏は長くなりそうです
昔はお盆を過ぎると涼しくなりました。
しかし最近は9月になっても暑い日が続きます。
10月まで半袖という年も珍しくありません。
つまり夏バテする期間も長くなっています。
6月から始まり、
7月、8月、
そして9月まで続く。
昔よりも体への負担は大きくなっています。
だからこそ、
「今から夏バテ対策を始める」
という考え方が大切です。
十分な睡眠。
こまめな水分補給。
冷たいものの摂り過ぎに注意すること。
そして無理をしないこと。
それだけでも体調は大きく変わります。
最後に
清暑益気湯は派手な漢方ではありません。
飲んですぐ元気になるような薬でもありません。
しかし、
暑さで弱った体を少しずつ立て直し、
胃腸を支え、
失った体力を取り戻していく。
そんな漢方です。
毎年夏になると、
・食欲が落ちる
・だるくなる
・下痢しやすい
・疲れが取れない
・体重が減る
そんな方は一度ご相談ください。
最近の日本の夏は、昔の夏とは違います。
冷房と猛暑に囲まれて生活する現代人にとって、清暑益気湯は今なお頼りになる漢方薬のひとつです。
昔から受け継がれてきた知恵を上手に活かしながら、今年の長い夏を元気に乗り切りましょう。