2026年4月16日
四逆散・抑肝散・加味逍遙散の使い分け
こんにちは、小林内科医院です。
「最近イライラしやすいんです」
「なんとなく余裕がなくて…」
「ストレスで体調も崩れていて」
外来で本当によく聞く言葉です。
ただ、ここで一つ大切なことがあります。
“イライラ”といっても、その中身は人によってまったく違うということです。
怒りとして外に出る人もいれば、
我慢して体にため込む人もいれば、
なんとなく不安や不調として続く人もいます。
漢方は、この違いをとても大切にします。
そしてその違いは、実はある程度シンプルに整理することができます。
イライラの正体は「気の乱れ」
漢方では、イライラの多くは
→ 「気(き)の流れの異常」
と考えます。
本来、体の中の気はスムーズに流れています。
しかしストレスがかかると、
流れが止まる
上にのぼる
発散できない
といった状態になります。
その結果として
イライラ
不安
頭痛
腹痛
不眠
などが現れます。
ここで大切なのは
「どのように乱れているか」
です。
イライラは3つに分けて考える
今回のポイントはここです。
イライラは大きく
① 内にため込むタイプ
② 外に出てしまうタイプ
③ 複雑に乱れるタイプ
に分けて考えると、とても理解しやすくなります。
① 内にため込むイライラ
―四逆散タイプ―
まず最初に押さえておきたいのがこのタイプです。
これはいわば
“イライラの基本形”
です。
■こんな方に多い
我慢しがち
周囲に気を遣う
ストレスを外に出せない
そして体には
ストレスで腹痛
下痢と便秘を繰り返す
お腹の張り・ガス
といった症状が出ます。
■体の中で起きていること
これは一言でいうと
「気が詰まっている状態」です。
本来流れるべき気が、
胸やお腹で止まる
下に降りない
渋滞する
その結果、
→痛みや不快感として現れます。
■四逆散の生薬とその意味
四逆散は非常にシンプルな処方です。
柴胡
芍薬
枳実
甘草
この4つだけで構成されています。
●柴胡(さいこ)
気の流れを動かす中心的な生薬です。
ストレスによって滞った気を外へ広げ、流れを作ります。
●芍薬(しゃくやく)
筋肉の緊張をゆるめ、痛みを和らげます。
また、内側に収める力を持ち、過剰な動きを抑えます。
●枳実(きじつ)
上にたまった気を下に降ろします。
腸の動きを改善し、ガスや張りを軽減します。
●甘草(かんぞう)
全体のバランスを整え、芍薬とともに痛みを和らげます。
■柴胡+芍薬の意味
柴胡は“外へ広げる力”
芍薬は“内へ収める力”
この2つが合わさることで
動と静のバランスが取れる
結果として、
→詰まっていた気がスムーズに流れ始めます。
■ひとことで
「我慢して固まった体をゆるめる薬」です。
② 外に出てしまうイライラ
―抑肝散タイプ―
■こんな方に多い
怒りっぽい
すぐカッとなる
イライラが強く出る
不眠がある
■体の状態
これは
→気が上にのぼりすぎている状態です。
つまり、
→ブレーキが効かない状態
■抑肝散の本質
抑肝散のポイントは
「平肝息風」
です。
平肝 → 高ぶった肝を抑える
息風 → 神経の興奮を鎮める
■生薬の意味
●釣藤鈎(ちょうとうこう)
神経の興奮を鎮める代表的な生薬です。
不安やイライラ、けいれん様の症状を抑えます。
●柴胡
高ぶった気の流れを整え、過剰なエネルギーを抑えます。
●当帰・川芎
血流を改善し、神経に栄養を与えます。
イライラの背景にある“血の不足”を補います。
●茯苓・朮
胃腸を整え、自律神経の安定に寄与します。
■四逆散との違い
四逆散は
「気の詰まりを流す」
一方で抑肝散は
「神経の高ぶりを鎮める」
四逆散=流す薬
抑肝散=鎮める薬
■臨床的なイメージ
四逆散 → 我慢している人
抑肝散 → 怒りが出てしまう人
■ひとことで
→「高ぶった神経にブレーキをかける薬」です。
③ 複雑に乱れるイライラ
―加味逍遙散タイプ―
最後は最もよく見かけるタイプです。
■こんな方に多い
なんとなくイライラが続く
不安や落ち込みがある
更年期症状
体のだるさや疲れ
■体の状態
これは単純なストレスではなく、
気の滞り
血の不足
軽い熱(のぼせ)
が重なっています。
■生薬の構成と意味
●柴胡・芍薬
気の流れを整える(四逆散の要素)
●当帰・芍薬
血を補い、体を支える
●茯苓・朮
胃腸を整え、体力を補う
●牡丹皮・山梔子
体の熱を冷まし、のぼせやイライラを抑える
●薄荷
気を発散し、軽く流す
■この処方の特徴
巡らせる+補う+冷ます
これを同時に行います。
■なぜ複雑になるのか
ストレスだけでなく
ホルモンバランス
体力低下
自律神経の乱れ
が重なるためです。
■ひとことで
→「ゆらぐ心と体を整える薬」です。
抑肝散と加味逍遙散の違い
■抑肝散
怒ると顔が青白い
手が震える
緊張が強い
収縮・緊張型
■加味逍遙散
顔が赤くなる
のぼせ・ほてり
不安・多愁訴
熱・発散型
実際の使い分け
腹痛・IBS → 四逆散
怒り・不眠 → 抑肝散
更年期・慢性不調 → 加味逍遙散
患者さんへ
イライラは「気のせい」ではありません。
体の中で起きている変化です。
詰まっているのか
高ぶっているのか
弱っているのか
それによって治療は変わります。
漢方は
その人に合わせて整える医療です。
「最近イライラしやすい」
「ストレスで体調が悪い」
そんなときは、無理に我慢せず
ぜひ一度ご相談ください。
体のサインを一緒に読み解き、
無理のない形で整えていきましょう。