風邪のひき始めを漢方で考える|新百合ヶ丘の内科・消化器内科・漢方内科|小林内科医院|土日診療

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風邪のひき始めを漢方で考える

風邪のひき始めを漢方で考える|新百合ヶ丘の内科・消化器内科・漢方内科|小林内科医院|土日診療

2026年9月10日

―「太陽病」と5つの漢方薬―

こんにちは、小林内科医院です。

まだ9月ですが、今年はすでにインフルエンザの流行を強く意識する状況になってきました。

川崎市のインフルエンザの発生状況は、定点当たり患者報告数が5.6人と、前の週と比較すると倍増しており、例年より一カ月程度早い流行を迎えようとしています。

「急に寒気がしてきた」

「熱が出て、体の節々が痛い」

「首や肩がこわばってきた」

「なんとなくゾクゾクする」

「水のような鼻水が止まらない」

風邪やインフルエンザの始まり方は、人によってずいぶん違います。

同じ「風邪をひいた」という状態でも、寒気が強い人もいれば、熱っぽさの方が目立つ人もいます。

汗がまったく出ない人もいれば、じんわり汗をかいている人もいます。

首や肩のこわばりが強い人もいれば、鼻水やくしゃみが前面に出る人もいます。

漢方では、このような一人ひとりの違いをとても大切にします。

西洋医学では、インフルエンザなのか、新型コロナウイルス感染症なのか、一般的な風邪なのか、原因や重症度を考えて診断していきます。

一方で漢方では、

「今、病気は体のどのあたりにあるのか」

「体はその病気に対して、どのように反応しているのか」

という見方をします。

その中で、風邪のひき始めを考えるうえで大切なのが、

「太陽病(たいようびょう)」

という状態です。

今回は、この太陽病について、

麻黄湯(まおうとう)

葛根湯(かっこんとう)

桂枝湯(けいしとう)

桂枝二越婢一湯(けいしにえっぴいっとう)

小青竜湯(しょうせいりゅうとう)

という5つの漢方薬を中心にお話ししたいと思います。

「風邪には葛根湯」

というイメージを持っている方は多いと思います。

もちろん葛根湯は非常によい漢方薬です。

ただし、風邪のひき始めであれば何でも葛根湯、というわけではありません。

漢方を選ぶときには、

「汗が出ているか、出ていないか」

ということが、とても重要なポイントになります。

太陽病とは何でしょう?

太陽病をできるだけ簡単に表現すると、

「病気がまだ体の表面にある状態」

と考えると分かりやすいでしょう。

風邪をひいたときのことを思い出してみてください。

「なんだか背中がゾクゾクする」

「首の後ろが寒い」

「頭が重い」

「熱っぽくなってきた」

「鼻水が出てきた」

「少し汗ばむ」

こうした症状は、風邪のかなり早い段階でよくみられます。

まだお腹を壊したり、食欲が大きく落ちたり、体力がひどく消耗したりする前の、いわゆる「風邪のひき始め」です。

漢方では、こうした状態を「表に病気がある」と考えます。

そして、この太陽病の中にもいくつかのタイプがあります。

その違いを見極めるうえで、とても大切なのが「汗」です。

「汗が出るか、出ないか」を見る

風邪の診察というと、

「熱は何度ですか?」

「咳はありますか?」

「喉は痛いですか?」

と聞かれることが多いと思います。

もちろん、どれも大切です。

しかし漢方では、それに加えて、

「自然に汗が出ていますか?」

ということも大切にします。

例えば、39℃の熱があり、ガタガタ震えるほど寒い。

体中の筋肉や関節が痛い。

頭も痛い。

ところが、これだけ熱があるのに汗はほとんど出ていない。

このような状態では、体の表面がギュッと閉じているような状態と考えます。

漢方でいう「実証」に近い太陽病です。

一方で、

熱はそれほど高くない。

少し寒気がする。

なんとなくだるい。

そして、じんわり自然に汗をかいている。

こちらは「虚証」に近い太陽病です。

同じ風邪の初期でも、この二人に同じ漢方薬を使うとは限りません。

体の反応の仕方が違えば、選ぶ処方も変わります。

そこが漢方の面白いところです。

麻黄湯―「寒い、痛い、汗が出ない」

まずは、太陽病の実証を代表する漢方薬、

麻黄湯

です。

インフルエンザの初期などで使われることも多い漢方薬です。

麻黄湯が合いやすい状態を簡単に表現すると、

「寒い、痛い、汗が出ない」

です。

急に高い熱が出た。

ゾクゾクするような強い寒気がある。

頭が痛い。

腰や背中、関節が痛い。

布団に入っているのに寒い。

ところが、これだけ熱があるのに汗がほとんど出ていない。

こうした状態は、麻黄湯を考える一つの目安になります。

インフルエンザの初期でも、

「朝は何ともなかったのに、昼から急に寒気がして、夕方には高熱が出た」

というような、立ち上がりの速いタイプがあります。

そうしたときに、

強い悪寒

高熱

全身痛

無汗

という組み合わせがそろっていれば、麻黄湯が合いやすいことがあります。

麻黄湯に入っている生薬

麻黄湯は、4種類の生薬からできています。

「麻黄(まおう)」は、発汗を促し、咳や息苦しさを和らげる方向に働く生薬です。

「桂皮(けいひ)」はシナモンの仲間で、体の表面を温め、巡りを整えます。

「杏仁(きょうにん)」は杏の種で、咳や呼吸器症状に使われます。

「甘草(かんぞう)」は甘みのある生薬で、他の生薬の働きをまとめながら、筋肉の緊張などを和らげます。

麻黄湯は、生薬の数が少ないぶん、非常にすっきりした処方です。

しっかり寒気があり、汗が出ず、体の表面が閉じている状態を動かしていく。

そんなイメージです。

ただし、

「熱が高いから麻黄湯」

という使い方ではありません。

すでに汗をたくさんかいている方や、体力がかなり落ちている方には向かないことがあります。

また、麻黄には作用の強い成分も含まれるため、動悸が出やすい方、高血圧や心臓病のある方、高齢の方などでは慎重に使います。

葛根湯―首や肩がこわばってきたら

次は、日本で最も有名な漢方薬の一つ、

葛根湯

です。

「風邪をひいたら、とりあえず葛根湯」

というイメージを持っている方も多いでしょう。

しかし、葛根湯にも得意な風邪があります。

ポイントは、

「首から肩にかけてのこわばり」

です。

ゾクゾクと寒気がする。

頭が痛い。

まだ汗はあまり出ていない。

そして、

「首の後ろから肩が妙に張っている」

「いつもの肩こりとは違う感じで、後頭部から首が重い」

「風邪をひいたら急に肩がガチガチになった」

という状態です。

昔の漢方では、

「項背こわばる」

と表現しました。

「項」は首の後ろ、「背」は背中です。

つまり、

首の後ろから背中にかけてこわばる

という意味です。

これは葛根湯を考えるときの大切なサインです。

葛根湯に入っている生薬

葛根湯には7種類の生薬が入っています。

名前の由来になっている「葛根(かっこん)」は葛の根で、首や肩のこわばりをほぐす方向に働きます。

「麻黄」は発汗を促し、体表の症状を動かします。

「桂皮」は体を温めます。

「芍薬(しゃくやく)」は筋肉の緊張や痛みを和らげます。

「生姜(しょうきょう)」は胃腸を助けながら体を温めます。

「大棗(たいそう)」はナツメの実で、胃腸を助け、処方全体を穏やかにします。

「甘草」はそれぞれの生薬を調和させます。

この組み合わせを見ると、葛根湯の性格がよく分かります。

後ほどご紹介する桂枝湯を基本にして、そこへ麻黄と葛根が加わったような構成になっています。

つまり、

桂枝湯よりも体表を動かす力が強く、

さらに葛根によって首や肩のこわばりにも対応する。

これが葛根湯です。

ですから、

「なんとなく風邪っぽいから葛根湯」

ではなく、

「まだ汗があまり出ていなくて、寒気があり、首や肩がこわばっている」

というところまでみると、より葛根湯らしい使い方になります。

桂枝湯―「自然に汗をかいている」風邪

次は、

桂枝湯

です。

桂枝湯は、漢方を理解するうえで非常に大切な処方です。

風邪の初期で、

寒気がする。

少し熱っぽい。

頭が重い。

鼻がぐずぐずする。

でも麻黄湯を使うような激しい悪寒や強い全身痛ではない。

そして大切なのが、

「じんわり自然に汗をかいている」

ということです。

これが桂枝湯らしい状態です。

麻黄湯の人が、

「寒い、痛い、熱がある、でも汗が出ない」

というイメージなら、

桂枝湯の人は、

「寒気はするけれど、それほど激しくない。少し熱っぽくて、自然に汗ばんでいる」

というイメージです。

漢方では、この自然に汗が出ている状態を「自汗」と呼びます。

この自汗があるかどうかは、太陽病をみるうえで非常に大切です。

桂枝湯に入っている生薬

桂枝湯は、

桂皮、芍薬、生姜、大棗、甘草

という5種類の生薬からできています。

「桂皮」は体表を温め、巡りを整えます。

「芍薬」は筋肉の緊張を緩め、痛みを和らげます。

「生姜」は体を温めながら胃腸を助けます。

「大棗」は胃腸を守り、体を支えます。

「甘草」は処方全体のバランスを整えます。

麻黄湯と比べると、とても穏やかな組み合わせです。

桂枝湯は、

「無理やりたくさん汗を出す薬」

というより、

「乱れてしまった体表のバランスを整える薬」

と考えると分かりやすいでしょう。

すでに自然に汗が出ている人に、さらに強く発汗させる必要はありません。

そこを穏やかに整えてあげるのが桂枝湯です。

桂枝二越婢一湯―桂枝湯と麻黄湯の間にある風邪

漢方では患者様を「実証」「虚証」ときれいに二つに分けられるとは限りません。

実際の診察では、

「桂枝湯では少し穏やかすぎるような気がする」

「でも麻黄湯を使うほど強い状態でもない」

という、中間のような患者様もいます。

そこで考える処方の一つが、

桂枝二越婢一湯

です。

名前は少し難しいですが、考え方はとても面白い処方です。

特徴は、

「熱っぽさがやや強く、寒気はそれほど強くない」

というところにあります。

昔の表現では、

「熱多く、寒少なし」

といいます。

少し汗は出ている。

寒気もあるにはあるけれど、ゾクゾク震えるほどではない。

むしろ、

「顔がほてる」

「体が熱っぽい」

「少し汗ばむ」

という感じが目立つ。

それでもまだ、風邪の症状が体の表面に残っている。

こうした状態で考える処方です。

桂枝二越婢一湯に入っている生薬

桂枝二越婢一湯には、

桂皮、芍薬、甘草、生姜、大棗、麻黄、石膏

などが入ります。

「桂皮」は体表の巡りを整えます。

「芍薬」は筋肉の緊張を和らげます。

「生姜」と「大棗」は胃腸を助けながら体を支えます。

「甘草」は全体のバランスを整えます。

「麻黄」は体表を開き、発汗や咳に働きます。

そして「石膏(せっこう)」は、こもった熱感を冷ます方向に働く生薬です。

つまり、

桂枝湯のように穏やかに体表を整えながら、

麻黄で少し外へ動かし、

石膏で残っている熱感を調整する。

そういう絶妙な組み合わせです。

温める生薬と、熱を冷ます方向の生薬が一緒に入っている。

一見すると不思議に思われるかもしれません。

しかし実際の患者様は、

「完全に寒い」

「完全に熱い」

ときれいに分かれるわけではありません。

寒気もあるけれど、熱っぽさもある。

汗も少しある。

でも、まだ風邪の感じが抜けきらない。

そういう中間の状態があるからこそ、このような処方があります。

エキス剤ではどうするの?

ここは実際の漢方診療では大切なところです。

現在、桂枝二越婢一湯そのものは、一般に使われている医療用エキス製剤としては用意されていません。

そのため、エキス剤で治療する場合には、

桂枝湯と越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)

を組み合わせて、桂枝二越婢一湯に近い考え方で対応することがあります。

もちろん、

「桂枝湯と越婢加朮湯を同じ量だけ足せば、そのまま桂枝二越婢一湯になる」

という単純な話ではありません。

元々の処方とは生薬の配合比率も異なります。

患者様の体力、汗の程度、寒気と熱感のバランスなどをみながら、使い方や量を考えていきます。

しかし、

「古典にある処方そのもののエキス剤がないから使えない」

というわけではありません。

処方の意味を理解して、現在使えるエキス製剤を組み合わせながら近い形に調整していく。

これも漢方診療の面白いところです。

小青竜湯―「冷え」と「水」がキーワード

最後は、

小青竜湯

です。

小青竜湯も太陽病で使う漢方薬ですが、麻黄湯や葛根湯とは少し違った特徴があります。

キーワードは、

「冷え」と「水」

です。

風邪をひいたとき、

透明でサラサラした鼻水が止まらない。

ティッシュが何枚あっても足りない。

くしゃみを何度も繰り返す。

水っぽい痰が出る。

そんなことがあります。

このような症状を漢方では、体の中の「水」のバランスが崩れている状態として考えることがあります。

そこに「冷え」が加わった状態に使いやすいのが小青竜湯です。

小青竜湯に入っている生薬

小青竜湯には、

麻黄、桂皮、芍薬、乾姜、細辛、五味子、半夏、甘草

が入っています。

「麻黄」は発汗や咳を鎮める方向に働きます。

「桂皮」は体を温めます。

「芍薬」は筋肉の緊張を和らげます。

「乾姜(かんきょう)」は乾燥させた生姜で、体の内側の冷えを温めます。

「細辛(さいしん)」も、冷えを伴う鼻水などに使われる生薬です。

「五味子(ごみし)」は咳を落ち着かせる方向に働きます。

「半夏(はんげ)」は痰や余分な水分をさばきます。

「甘草」は全体を調和させます。

つまり小青竜湯は、

「温めながら、余分な水をさばく」

処方です。

ですから、

透明で水のような鼻水。

サラサラした鼻汁。

水っぽい痰。

くしゃみ。

冷えると症状が悪くなる。

このような症状と相性がよいのです。

小青竜湯は風邪だけでなく、花粉症やアレルギー性鼻炎などでもよく使われます。

逆に、熱感がかなり強く、黄色く粘り気の強い鼻水が出ているような状態は、小青竜湯らしい「冷えと水」の状態からは少し離れてきます。

5つの漢方薬を整理してみましょう

ここまでの5つの処方を簡単に整理すると、

麻黄湯は、強い寒気、高熱、全身痛があり、汗が出ていない状態。

葛根湯は、寒気があり、汗はあまり出ず、特に首や肩のこわばりが目立つ状態。

桂枝湯は、寒気や熱感はあるものの比較的穏やかで、自然にじんわり汗をかいている状態。

桂枝二越婢一湯は、寒気よりも熱感がやや目立ち、桂枝湯と強い実証の中間にあるような状態。エキス剤では桂枝湯と越婢加朮湯を組み合わせて対応することがあります。

小青竜湯は、冷えがあり、透明でサラサラした鼻水や水っぽい痰が目立つ状態です。

こうしてみると、

「風邪には葛根湯」

だけではないことがお分かりいただけると思います。

漢方では、同じ風邪でも、

汗があるのか。

寒気が強いのか。

熱感が強いのか。

首や肩がこわばっているのか。

鼻水が水っぽいのか。

そうした違いを丁寧にみながら処方を選びます。

インフルエンザでも、漢方だけにこだわらない

今年のように早い時期からインフルエンザの流行が始まっているときには、もう一つ大切なことがあります。

高熱や強い倦怠感、全身痛などがある場合、

「麻黄湯を飲んだから大丈夫」

と自己判断しないことです。

インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、その他の感染症など、発熱の原因はいろいろあります。

必要に応じて検査を行い、インフルエンザであれば、患者様の年齢、基礎疾患、症状、発症からの時間などを考えて抗インフルエンザ薬を使います。

漢方と西洋医学は、どちらか一方を選ぶものではありません。

必要な検査や治療を行ったうえで、

「寒気がつらい」

「体中が痛い」

「首や肩がこわばる」

「鼻水が止まらない」

といった一人ひとりの症状に合わせて漢方を取り入れていく。

そうした使い方が大切だと思います。

漢方薬も「薬」です

漢方薬は自然由来の生薬から作られていますが、

「自然のものだから副作用がない」

というわけではありません。

今回ご紹介した処方の中にも、麻黄を含むものがいくつかあります。

麻黄は非常に有用な生薬ですが、体質や持病によっては、動悸、不眠、発汗などが出ることがあります。

また、甘草を含む漢方薬をいくつも重ねることで、甘草の量が多くなってしまうこともあります。

特に複数の漢方薬を組み合わせる場合には、処方名だけではなく、

「中にどのような生薬が入っているのか」

を見ることも大切です。

持病がある方、複数のお薬を飲んでいる方、高齢の方などは、医師や薬剤師に相談しながら使用してください。

おわりに

太陽病という言葉は少し難しく聞こえますが、実際に見ているのは、

「寒気がある」

「汗が出ない」

「自然に汗をかいている」

「首や肩がこわばる」

「体が痛い」

「水っぽい鼻水が出る」

といった、身近な体の変化です。

同じ風邪でも、体がどのように反応しているかによって、選ぶ漢方薬は変わります。

麻黄湯、葛根湯、桂枝湯、桂枝二越婢一湯、小青竜湯。

それぞれの違いを知ると、漢方では「風邪」という病名だけを見ているのではなく、そのときの患者様の状態そのものを見ていることが分かります。

これから本格的なインフルエンザの季節を迎えます。

必要な検査や西洋医学的な治療をきちんと行いながら、患者様一人ひとりの症状に合わせて漢方も上手に取り入れていく。

小林内科医院では、そんな治療を大切にしていきたいと考えています。

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